家族性高コレステロール

琉球大学病院
心臓血管低侵襲治療センター 特命教授
岩淵 成志

遺伝で高コレステロール

500人に1人 診断率1%未満

 -早期発見で治療は可能-

 不規則な食事、運動不足など生活習慣が要因で高くなる血液中のコレステロール値。だが、中には遺伝によってもともと悪玉コレステロール値が高く、生活習慣の改善や薬の服用でも値が下がりにくい「家族性高コレステロール血症」(FH)の患者が一定数いることが近年、分かってきた。65歳未満の若い年代で狭心症や心筋梗塞を患うリスクの高い病気 。患者数は多いのに、診断率は1%未満と極端に低く、県内でも多くの患者が見逃されている可能性がある。

  FHには父と母の両方に遺伝子異常がある「ホモ接合体」と、両親のいずれか片方の遺伝子に異常がある「ヘテロ接合体」の2種類がある。ホモ接合体は100万人に1人の割合で発症する難病指定のまれな病気だが、ヘテロ接合体は全人口の0・2%、500人に1人の割合でいるといわれ、遺伝性代謝疾患の中で最も患者数が多いという。
 FHには明確な診断基準がある。まずは症状や状況に心当たりがないか確認が必要だ。
 成人(15歳以上)の場合、①悪玉コレステロール値が未治療時で180以上ある ②手や肘、膝などの腱に黄色いしこり、またはアキレス腱が厚くなるなどの症状 ③2親等以内の家族にFHまたは早期に冠動脈疾患を患った人がいる―「このうち2項目に該当するものがあれば、ヘテロFHの確率が高い」と琉球大学医学部循環器内科学の岩淵成志診療教授は説明する。
 血液中にコレステロールが増えると脂質異常症になり、そのまま放置すれば、動脈硬化が進んで心筋梗塞など冠動脈疾患になるリスクが高まる。FHの患者の場合はその血液中でコレステロールを正常な濃度に保つ機能が遺伝的に欠損しており、日本動脈硬化学会によるとヘテロ患者が冠動脈疾患を発症する平均年齢は男性46歳、女性59歳と若年発症が多い特徴がある。
 治療では悪玉コレステロール値を徹底して低く抑えることが目標。食事や運動面の改善では効果がなく、薬の投与による治療が中心となるが、国内でヘテロFHと診断される確率は1%に満たず、出生児に遺伝性疾患を検査する仕組みのあるオランダの約70%に対して大きな開きがある。岩淵教授は県内の医療機関でも正しい診断がつけられず、放置されているケースが多いとみている。
 ヘテロ接合体の患者の平均寿命は通常とくらべて10~15年ほど短く、多くは狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などで死亡する。だが、今年に入り、国内でFHに効果のある新薬(PCSK9阻害薬)が発売され、治療の選択肢が広がった。岩淵教授は「早期に発見し、早く治療を開始すれば病気のない人とほぼ同じ寿命になる」 と強調。診断率の低さも課題に挙げ、子どもや孫へも引き継がれる可能性がある病気として、医療機関側の認識と患者側の意識を高めることの必要性を指摘した 。

平成28年9月4日(日)沖縄タイムス朝刊 掲載