循環器グループ

冠動脈・弁膜症カテーテル治療

平成25年は心臓カテーテル検査数256件、冠動脈形成術95件でしたが、前小倉記念病院循環器内科主任部長の岩淵医師が平成25年7月に当科の准教授に赴任してから症例数は増加しています。冠動脈疾患の重症症例や、慢性完全閉塞、左主幹部病変、高度石灰化病変などよりカテーテル治療の難易度の高い複雑病変の紹介患者が増え、現在冠動脈カテーテル治療数は年間200件程度となっています。特に当院では冠動脈高度石灰化病変の患者が多く、平成26年6月よりローターブレーター認定施設となり、令和2年7月からはダイヤモンドバックの認定をとり、岩淵医師の指導のもと質の高いカテーテル治療を実践しています(図1)。また、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)研修施設となり、冠動脈カテーテル治療の認定医、専門医を目指して研修できる体制ができました。大学病院での患者さんの特徴として複数疾患を合併している症例や,他院で治療困難と判断されるような症例が多く、症例ごとの毎朝毎夕行われる病棟回診や週2回のカンファレンスで症例ごとのカンファレンスを充実させています。

また、平成25年10月より本邦でも経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)が治療可能になりました。高齢や他の合併疾患のため開胸手術が困難な重症の大動脈弁狭窄症の患者さんに対して、開胸せず人工心臓を使用せずカテーテルを用いて大動脈弁置換術をするもので、侵襲が低く患者さんの負担がすくない治療法として注目されています。当院でも平成28年より認可を受け胸部心臓血管外科、麻酔科などと連携し、ハートチームとしてTAVIを開始しております(詳細はTAVIのリンクを参照してください)。

※高度石灰化病変に対するカテーテル治療について

通常の動脈硬化は脂質などの成分が固まったものでそこまで硬くないため、通常のカテーテル治療(風船治療)で使用するバルーン(風船)で広げることができます。しっかりと広げることで、その後にステント(金属の金網)を安全に留置することができるようになります。しかし、高齢の患者さんや血液透析をされている患者さんなどはやわらかい動脈硬化ではなくプラークが石灰化し硬くなることがあります。その場合バルーンでは充分に動脈硬化の血管を広げることができず、狭窄が残ったり、ステントが置けなかったり、置けたとしてもいびつな留置となり、のちの合併症の原因となったりします。そのため高度石灰化病変に対してはバルーンのみではなく、石灰化した病変を削り取る特殊な治療を組み合わせることが有効です。

高度石灰化病変に対する治療法としてロータブレーター(Rotablator)(図2,3)ダイアモンドバック(Diamondback)(図4,5)という機械を用いた高速回転式経皮的冠動脈形成術があります。それぞれの特徴については後述しますが、これらの治療法はどこの病院、どの医師でもできるわけではなく、一定症例数以上のカテーテル治療を行っていることやカテーテル専門施設などの施設基準や施行する医師がカテーテル専門医もしくは認定医である必要があります。当院はこれらの施設基準を満たしており、岩淵医師をはじめとして基準を満たす医師もいるため必要な症例に対して以前から積極的に施行しています。

 

<ロータブレーダー>

ロータブレーターは先端に人口のダイヤモンドで作られたドリルを備えていて、1分間に14-20万回の回転を行い、石灰病変を削ることができます。

 

<ダイアモンドバック>

ダイアモンドバックは先端から6.5mmのところにクラウンと呼ばれるダイヤモンドで構成された部分があり、この部分が1分間に8万回または12万回の回転を行い、石灰化病変を削ることができます。ロータブレーターとの違いとして、血管径2.5 mmから4.0 mm(より大きな血管)を1サイズのみで且つ6Fr※の小径のカテーテルで治療ができる特徴があります。病変に応じてロータブレーターとの使い分けをしています。

 

図1 当院のロータブレーダーの件数及びPCI件数に対する割合

 

 

図2 ロータブレーダー本体(Boston Scientific社より提供)

 

 

図3 ロータブレーダーで血管を削る様子の模式図 (Boston Scientific社より提供)

 

図4 ダイアモンドバック(上:操作部、下:先端のクラウン)(メディキット社より提供)

 

図5 ダイアモンドバックで血管を削る模式図(上:縦断面、下:横断面)(メディキット社より提供)

 

心不全治療

薬物療法はもちろんのこと非薬物療法として大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助(PCPS)等の補助循環療法を行っています。重症心不全に対しては両室同期ペーシング治療(CRT)や、心臓血管外科の協力のもと左室形成術をおこない良好な成績をおさめています。心不全患者にたいするASV(二相式気道陽圧呼吸療法)療法も行っています。

心不全治療は薬物療法、生活・食事指導、心臓リハビリテーションなど患者さんによりそって末永く治療する分野です。患者さんのQOLを考えるとより近隣の診療所での継続治療が必要になることも多く、診療所の先生も含めた心不全カンファレンスを定期的におこない患者さんにとって最適な治療を模索します。心不全カンファレンスには医師、看護師、薬剤師、栄養士、リハビリテーション部署など多職種がかかわりますので、病院の総合力が必要な分野です。

このような治療でも軽快しない重症心不全患者さんに対しては、心移植や植え込み型人工心臓という最終的な治療が必要になります。当院は沖縄県唯一の施設として平成24年1月より植え込み型補助人工心臓実施施設に認定されています。また、心移植適応患者さんの評価・治療・ケアをしていますが、可能な施設は沖縄県では当院も含めて2施設しかありません。

当院では心不全チームを主体として薬物療法から最終的な心移植評価まではばひろい治療を実践しています。

心臓リハビリテーション

心臓リハビリテーションは循環器疾患患者さんの症状やQOL、予後改善効果があることから循環器疾患の極めて重要な地用法として位置づけられています。当院では、平成23年に正式に心臓リハビリテーション部門を立ち上げ、心臓リハビリテーション専任医師と多職種が連携し、運動療法を中心に患者教育などを含めた包括的心臓リハビリテーションを実施しています。心大血管手術後や植込み型補助人工心臓手術(VAD)を要するような重症心不全まで幅広い症例を対象とし、令和元年の心臓リハビリテーション実施総件数は7383件となっています。また年間150-200件の心肺運動負荷試験による運動耐容能評価を行い、心疾患患者さんの安全で効果的な運動諸処方へ活用しています。今後は超高齢の心疾患患者さんやVAD症例や心臓移植待機症例を含めた重症心不全患者さんの社会復帰やより良い在宅生活を支持するために、患者様やご家族との協働、地域医療との連携を行い、チーム医療体制のさらなる強化に努めていきます。

不整脈治療

不整脈は、不整脈の原因により心房性、心室性、徐脈性、頻脈性に分かれます。致死性のもの、生活の質を著しく低下させるもの、心機能を悪化させるものもあり、それぞれの不整脈の種類に応じた適切な治療が必要になります。

これらの疾患に対し、薬物療法・カテーテルアブレーション・ペースメーカー埋め込み・ICD(植え込み型除細動器)埋め込み・CRT(心臓再同期療法)埋め込みを行い、患者様にとって最適かつ最良の治療を施すよう心がけています。令和元年は電気生理学的検査・カテーテルアブレーション95件、心臓ペースメーカー・植え込み型除細動器植込術(ICD)・心臓再同期療法(CRT, CRTD)30件施行しています。

肺高血圧治療

当科では肺高血圧症専門外来を開設し、肺高血圧に対する治療を積極的に行っています。

肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送る肺動脈の圧が高くなる病気です。肺高血圧になると肺や心臓の血液循環が悪くなり、全身に十分な血液を送り出すことができなくなるため、動いたときの息切れ、疲れやすい、息苦しい、足のむくみ、失神など、さまざまな症状が現れてきます。

肺高血圧症は、以前は治療することが難しい病気とされていましたが、近年新たな治療法の登場により病気の進行を抑えることができるようになってきました。肺高血圧症は様々な原因でおこりますが、その中でも肺動脈自体に病気の原因がある肺動脈性肺高血圧症(PAH)と肺動脈が血栓によって詰まってしまうことで発症する慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)が新たな治療法の対象になります。PAHやCTEPHは厚生労働省の指定難病であり、国の補助を受けながら治療を受けることができ、当院では重症PAHに対するエポプロステノール持続静注療法やCTEPHに対するカテーテル治療(バルーン肺動脈形成術)も行っております。